ServiceNowの株価が急落している。きっかけはAnthropicによるAIエージェント関連の発表です。「ServiceNowのような既存プラットフォームはAIに代替されるのではないか」という懸念が市場に広がった。でも自分はまったく悲観していません。むしろ今こそ本質を語るタイミングだと思っています。ITSMを超えてEA(エンタープライズアーキテクチャ)・ガバナンス・AI基盤まで対応できるこのプラットフォームが、なぜ今注目されているのかを現場目線で語ります。

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ServiceNowが注目される理由――CSDMとワークフローの2本柱

ServiceNowを一言で表すなら、「グローバル標準データモデルとワークフローを持つエンタープライズプラットフォーム」です。この2点が他のツールと決定的に違う。

CSDM(Common Service Data Model)はハードウェア管理・ソフトウェア管理・サービス管理・情報セキュリティ推進・インフラアーキテクチャ推進といった、社内IT部門が扱うあらゆるデータを1つのモデルで整理できる標準データモデルです。各リージョン・グループ会社がバラバラに持っているデータをこのモデルで統合できる。「うちのシステム、何個あるんだっけ?」という問いに即答できない会社の多くは、データモデルが標準化されていないことが根本原因です。

ワークフローエンジンはSAPやMicrosoft 365など、社内に散在する各システムのデータをつなぎ、業務プロセスを自動化します。技術的な連携自体はそれほど難しくありません。真の難しさは、プロダクトオーナーと業務設計側の認識を合わせることにあります。

モジュール構成と段階的な導入ロードマップ

ServiceNowのモジュール展開は段階的に進めるのが鉄則です。

まずITSM(ITサービスマネジメント)から始めてください。サービス窓口の一本化・インシデント管理・問い合わせ改善はROIが最も説明しやすい領域です。次にITAM(ITアセット管理)とIRM(統合リスク管理)を並行推進します。セキュリティ観点でアセットとリスクを一元管理する目的で、ITSMと別レーンで走らせられます。その後にITOM(ITオペレーション管理)・PPM(プロジェクトポートフォリオマネジメント)・APM(アプリケーションポートフォリオマネジメント)・HRSD(人事サービスデリバリー)へと展開します。この段階まで来て初めて、ServiceNowがエンタープライズ全体のプラットフォームとして機能し始めます。

使いこなせている会社は、これらすべてを入れていく全体ロードマップを最初から引いています。使いこなせていない会社は「いいとこだけ取り」で部分導入に終わり、データ統合とワークフロー連携が活きない。「全然使えてない」という声をよく聞くのはこのパターンです。なお「ITSMだけ使う」という割り切り自体は合理的な判断です。全体展開する気も予算もないのにServiceNowを選ぶことが問題なのであって、目的と規模に正直に向き合った上での選択であれば問題ありません。

EAの視点から見たServiceNow――PPMとAPMが核心

EAとしてServiceNowを評価するとき、PPMとAPMの2機能が特に重要です。

PPMのデマンド管理機能を使うと、ITガバナンスの予算管理プロセスをServiceNow上で回すことができます。どんな需要があり、いくらの投資が必要か。それを承認するプロセスをワークフローとして組み込み、セキュリティ管理・テクノロジー管理・ライセンス管理といったIT側のサブロードマップを一元管理します。

APMはEAのアプリケーション&テクノロジーレイヤーのデザイン領域に直結します。どの業務機能がどのシステムに紐づいているのか。その業務はグローバル標準でやるべきか、ローカル最適化で残すべきか。この設計と整理をServiceNow上で管理できます。この2機能を業務設計と合わせて使いこなすことが、EAとしてServiceNowを活かす本道です。

ServiceNowに向かない会社がある

ユーザー数が少なく、Excelで何とかなる規模の会社には向きません。ServiceNowは大手企業向けのプラットフォームであり、ライセンスコストはSalesforceやMicrosoftと並んで高水準です。

ROIの試算としては、セキュリティリスク回避コストで計算するのが現実的です。「アセット管理ができていないことで発生しうるインシデントのコスト」を試算し、導入コストと比較する。この説明が経営層には最も通りやすいです。グローバル展開を見据えており、社内ユーザーが多く、複数のシステムとデータが散在している——この条件が揃っているときに初めて真価が発揮されます。

日本企業特有の難しさ――フィット・トゥ・スタンダードへの不慣れ

日本企業がServiceNowを導入するときに必ずぶつかる壁が、グローバル標準の考え方への不慣れです。既存業務が確立しているほど「うちの業務に合わせてカスタマイズしてほしい」という要求が強くなります。しかしServiceNowはフィット・トゥ・スタンダード——ツールの標準に業務を合わせていく思想で設計されています。新規業務の設計であればこの思想を受け入れやすい。既存業務への適用が難しい。この非対称性を理解した上で、どこを標準に合わせてどこを残すか、業務設計と並走しながら判断していく必要があります。

導入を成功させる2つの鍵――フェーズ0とCoE設置

ServiceNowで最初につまずく理由は、システム構築担当だけが詳しくなって業務設計側が置いてけぼりになることです。フェーズ0としてまずITコンサルと一緒に動くものを作ることを推奨します。PoC的な位置づけで小さく始め、そこから自社でどう展開するかを考える。ITコンサル費用込みで検討できない規模の会社には、そもそもServiceNowは向きません。

もう一つの鍵がCoE(Center of Excellence)の設置です。事務局的な存在でいい。モジュールごとに縦割りのチームができてくると、CoEが横串で連携させる役割を担います。個別最適の積み重ねを全体最適に引き戻す——EAとしてやってはいけないことは、ServiceNow推進でもやってはいけないことです。CoEの有無は経営層への承認のしやすさにも直結します。

AnthropicのAI発表で株価が下がった――でも自分は悲観していない

AnthropicのAIエージェント関連の発表を受けて、「ServiceNowのような既存プラットフォームはAIに代替されるのではないか」という懸念が広がり、株価が急落しました。自分の見立ては逆です。AIエージェントがどれだけ賢くなっても、「どこで動くのか」「何のデータを使うのか」「どのビジネスプロセスの上で動くのか」という問いへの答えが必要です。ServiceNowはまさにその答えを提供する基盤です。

ただし前提があります。まずCSDMを整備することがAI活用の実質的な出発点です。データが正規化されていなければ、AIは正しく機能しません。具体的には3つの軸でAIとの連携が活きます。データ分析・ワークフロー効率化・インシデント対応のナレッジ活用——いずれもServiceNowが持つデータとプロセスの厚みがあって初めて成立します。10年後、ServiceNowは「AIを動かすインフラ」として位置づけられていると自分は予測しています。

ServiceNow推進はEAのキャリアを強くする

ServiceNowを推進する経験は、業務設計の視点とプラットフォーム活用の技術的理解という2軸を同時に鍛えます。EAとしての業務体系設計の力と、エンタープライズプラットフォームを使いこなす実装力——この両方を持っている人材は、社内ITの現場でまだ多くありません。ServiceNow推進の経験は、EAとしてのキャリアを確実に強くします。

あなたの現場はどうですか?

ServiceNowを検討している方、すでに導入している方、まったく縁がないと思っている方。どんな立場でも、「データを統合する」「ワークフローをつなぐ」という課題は必ず存在します。ServiceNowがその答えになるかどうかは会社の規模と目的次第ですが、そのコンセプトを理解することはEAとして必須だと自分は考えています。

あなたの現場では、ServiceNowをどう位置づけていますか?導入済みの方はどのモジュールから始めましたか?ぜひコメントで聞かせてください。


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筆者:EAの中の人|事業会社の社内IT部門にてエンタープライズアーキテクトとしてEA推進・ITガバナンス・データ活用・AI活用に携わって10年以上。
本記事の内容は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。