サービスを削減したあと、IT部門は何をすべきか――利用最適化とEAの役割
社内IT部門にとって、コスト削減は永遠のテーマだ。システムを減らせ、ライセンスを絞れ、共通サービスを統廃合せよ。そういう圧力は今後も続く。だが削減したあと、IT部門は本当に仕事を終えていいのか。私はそうは思わない。
IT部門のコスト削減が招く「見えないコスト増」
IT部門が共通サービスを廃止すると、何が起きるか。ユーザーは代替ツールを個別に探し始める。部門が独自にSaaSを契約し、管理されないまま使われる、いわゆる「野良SaaS」が社内に広がっていく。IT部門の予算は確かに下がる。だが会社全体で見たとき、コストは本当に下がっているか。
答えはほぼ「ノー」だ。
IT部門が一括管理していたからこそ、コスト削減策が打てた。その傘がなくなれば、野良SaaSが増え、ライセンス管理は崩壊し、セキュリティリスクは静かに膨らんでいく。削減したのはIT部門の予算であって、会社全体のコストではない。ここを混同したまま「削減完了」と言い切るのは、EA(エンタープライズアーキテクチャ)の観点から見て明らかに失敗だ。

システム廃止の「本当のコスト」を測れ
サービスを廃止するとき、IT部門はどれだけの影響を測定しているか。
何人が使っていたか。代替手段は何か。代替ツールを個別に使い始めた場合、会社全体のライセンスコストはどうなるか。エンゲージメントへの影響は。業務継続性への影響は。
こうした試算なしに「コストが高いから廃止」と判断するのは、部分最適の典型だ。特にDX推進の名のもとに作られた、効果が見えにくいシステムほど危ない。人件費だけで安く回っていたものが、廃止の俎上に載ることがある。数字として見えないからだ。
システムポートフォリオ管理の観点からも、廃止の判断は廃止後の世界を含めて評価しなければならない。それをやるのがEAの仕事だ。

SaaS利用審査プロセスが、利用最適化の入口になる
では、廃止後の野良SaaSをどう管理するか。答えはシンプルだ。
SaaSを利用するときに審査プロセスを入れる。それだけでいい。
「承認が面倒」「スピードが落ちる」という反発は必ず出る。だがこれは、手間ととるかセキュリティ担保ととるかの問題だ。情報管理・セキュリティの観点できちんと審査された仕組みがあることは、ユーザーにとっても安心材料になる。自分が使おうとしているSaaSが本当に大丈夫かどうか、確かめてくれる仕組みがあるということだ。
なお、審査を通さずに使い続けるケースへの対処もシンプルだ。「審査なしの利用はその部門の責任」という原則を明確にしておくだけでいい。IT部門が全責任を負う必要はない。
審査プロセスのもう一つの価値は、データが蓄積されることにある。

申請データの蓄積が「間接的な標準化」につながる
審査プロセスを回すと、申請データが溜まる。どのSaaSが多く申請されているか。どの部門が何を使いたがっているか。共通サービスが廃止されたあと、どんな申請が増えたか。
まずはこのデータを出すだけでいい。高度な分析は後からでいい。データがある状態とない状態では、次の打ち手がまったく違う。
申請が集中するSaaSは、事実上の「みんなが使いたいツール」だ。IT部門が推奨するわけでも、標準化を宣言するわけでもない。だがデータとして示すことで、自然に同じツールに収束していく。セキュリティリスクの分散も防げる。アプリケーションポートフォリオ管理の観点からも、管理できる単位にツールが絞られていく。
これが利用最適化の成熟した姿だ。最初は「申請を受け付けるだけ」でいい。データが溜まれば分析できる。分析できれば動向が読める。動向が読めれば、共通サービスへの取り込みや移行判断の根拠になる。段階を踏んで育てていく仕組みだ。

全体最適化は、地味で終わりのない戦いだ
IT部門の役割転換、と言うと大げさに聞こえるかもしれない。実態はそうではない。コスト削減を求められる立場は変わらない。システムを減らし、ライセンスを絞る仕事は続く。
ただその中で、ITガバナンスの観点から会社全体のコストと利用状況を見続ける視点を持つ。廃止の影響をデータで示す。審査プロセスで利用を把握する。申請データから動向を読む。それをあらゆるステークホルダーに伝え、調整し続ける。
全体最適化は、誰にでも伝わりやすい旗印ではない。経営層にも、事業部門にも、他のIT担当者にも、それぞれ違う文脈で説明しなければならない。立てれば誰かが立たない、そういう調整の世界だ。経営層が聞く耳を持たない場面もある。それでもデータを武器に、粘り強く示し続けるしかない。
だから戦い続けるしかない。

あなたの現場はどうですか?
共通サービスを廃止したあと、会社全体のコストをきちんと追えていますか?SaaSの利用申請プロセスはありますか?申請データは蓄積されていますか?
ぜひあなたの現場の状況を聞かせてください。

筆者:EAの中の人|事業会社の社内IT部門にてエンタープライズアーキテクトとしてEA推進・ITガバナンス・データ活用・AI活用に携わって10年以上。
本記事の内容は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。
