EAとITガバナンスは両輪で回せ――社内IT部門のEA推進担当者が「都市計画」と「予算管理」を制する方法
社内IT部門でEA推進を担当しているみなさん、変革を進めようとするとき、何から手をつければいいか迷うことはありませんか?EA(エンタープライズアーキテクチャ)とITガバナンス、この2つを両輪として動かすことが、自分の現場で見えてきた答えです。
EAとITガバナンス――この2つが揃わないと変革は動かない
社内ITの変革を語るとき、よく「デジタル変革」「DX推進」といった言葉が飛び交います。でも実際のところ、その土台になるのはもっと地味で堅実な2つの仕組みです。
ひとつはEA——都市計画のようなもの。もうひとつはITガバナンス——予算管理を核にした統治の仕組み。この2軸が揃って初めて、変革の話ができます。どちらが欠けても、ハンドルのない車を走らせるようなものです。

EAは「都市計画」――業務機能一覧とシステムマッピングから始める
EAを一言で表すなら、社内ITの都市計画です。いきなりシステムの話をするのではなく、まず業務機能の一覧を作るところから始まります。
自社にどんな業務があるのか。その業務はグローバルで標準化すべきものなのか、ローカルで残すべきものなのか。たとえば給与支払いは各国の法制度に依存するローカル業務ですが、受注管理はグローバルで統一できるかもしれない。この仕分けをまず丁寧にやることが、EAの第一歩です。
業務機能の一覧ができたら、次は社内のITアセット(システム一覧)とのシステムマッピングです。どの業務機能をどのシステムが担っているのかを紐付けると、途端にいろんな問題が見えてきます。
- 同じ機能を複数のシステムが重複してカバーしている
- グローバル標準化すべき業務なのに、国内限定のシステムで動いている
- 誰がオーナーかわからないシステムが存在している
このマッピングをもとに、システムごとに「グローバル標準化・ローカル維持・終息(廃止)」の3区分で方針を決めていく。これが都市計画としてのEAの骨格です。

現場の壁――業務機能の洗い出しは社内ITだけではできない
ここで必ず直面するのが、業務機能の洗い出しを「誰がやるのか」問題です。
正直に言います。これは社内IT部門だけでは完結しません。業務の実態を知っているのは事業部門であり、ITはあくまでその業務を支える側です。つまり、業務機能の洗い出しは事業部門との協働なしには進まない。
自分の経験から言うと、ここで失敗しやすいのが「業務側の巻き込みに注力するあまり、IT側で完結できることを後回しにする」パターンです。ネットワークやセキュリティなど、事業部門を待たずに進められる領域は先に片付けて実績を作る。「こちらはもう終わっていますよ、次はお願いします」という状態を作ることが、事業部門を動かすテコになります。難しいところと簡単なところを並行して進める——これが現場の鉄則です。

ITガバナンスの核心――お財布を1つにする
ITガバナンスの話に移ります。ガバナンスというと組織図や承認フローの話になりがちですが、自分が最も重要だと考えるのは予算管理の集約です。
先ほどの3区分(グローバル標準化・ローカル維持・終息)に応じて、予算管理の考え方も変わります。
- グローバル標準化:集中管理・投資優先
- ローカル維持:前年度実績以下を基本とする現状維持
- 終息(廃止):個別相談・縮小方向
そして最も大切なのが、お財布を1つにするという発想です。事業部門ごと、システムごとにバラバラに予算を持っていると、全体としていくら使っているのか、何に投資しているのかが見えなくなります。
家族に例えるなら、祖父母・親世代・子世代でそれぞれ財布を持っていると、一家全体の支出が把握できない。一番上の人間が全体の財布を握り、どこに・いくら・なぜ使うのかを可視化して判断する。それがITガバナンスにおける予算集約の本質です。
トップダウンで権限を集約できた部分はスムーズに動きます。一方で、管轄外・適用範囲外の領域をどこまでガバナンスの傘に入れるかは、多くの現場で未解決の課題として残ります。どこまで適用してどこからは任せるのか、その線引きを明確にすることが次のステージの鍵です。

「フロントガラスを拭く」――ITアセット管理がすべての出発点
最後に、これだけは声を大にして言いたいことがあります。
変革を進める・進めないにかかわらず、まず自社のITアセット管理台帳を整備してください。
どんなシステムを持っているのか。誰がオーナーで、誰が使っていて、いつ稼働していつ終わる予定なのか。どんなプロダクトで構成されていて、業務は何で、利用範囲はどこまでか。このライフサイクル情報が揃っていないと、EAもガバナンスも始まりません。
これは車のフロントガラスを拭く作業です。フロントガラスが汚れたままでは、どんなに優秀なドライバーでもハンドルもアクセルも正確には操作できない。まず見える化をする——これがすべての出発点です。
情報セキュリティの観点からも、このITアセット管理台帳は必須です。何を持っているかわからない状態で、守れるわけがありません。

EA推進担当者が押さえるべき実践ステップ
- 業務機能を洗い出す(グローバル/ローカルの仕分けを含む)
- ITアセットとシステムマッピングする(重複・ミスマッチを可視化)
- システムごとに3区分の方針を決める(標準化・維持・終息)
- 予算のお財布を1つにする(権限集約とガバナンスプロセスの整備)
- IT側で完結できることから先に動かす(実績を作って事業部門を巻き込む)
変革の話をする前に、地図を描く。地図を描く前に、フロントガラスを拭く。この順番を間違えないことが、EA推進の現場で学んだ最大の教訓です。EAとITガバナンスは、どちらが欠けても機能しない。両輪として同時に育てていくことが、社内IT部門が変革を主導するための唯一の道だと自分は信じています。
あなたの現場では、ITアセット管理台帳はきちんと整備できていますか?業務機能とシステムのマッピングは、どこまで進んでいますか?ぜひコメントで聞かせてください。

まとめ(一枚絵)

筆者:EAの中の人|事業会社の社内IT部門にてエンタープライズアーキテクトとしてEA推進・ITガバナンス・データ活用・AI活用に携わって10年以上。
本記事の内容は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。
