経営とITを紐付けるとは何か――社内EAが現場から語る経営IT連携の実践
経営IT連携という言葉はどの会社でも出てくる。でも実際に何をすればいいのか、現場レベルで腹落ちしている人はどれだけいるだろうか。10年以上EA(エンタープライズアーキテクチャ)をやってきた自分の経験から、率直に話したいと思います。
経営とIT、なぜ紐付けが必要なのか
M&A、事業再編、経営方針の転換。経営の意思決定は、現場からすると「またか」と思うくらい変わります。でもそれ自体は責めるべきことじゃない。経営がダイナミックに動くのは、むしろ健全な姿です。
問題は、その経営の動きに対してITが「で、うちのシステムどうなるの?」という問いにすぐ答えられない状態になっていることです。
M&Aが決まった。じゃあAシステムは残すのか、Bシステムは捨てるのか。移行コストはいくらか。残したときの運用コストは。この問いに対して、ITがタイムリーに答えられなければ、経営とITは永遠に噛み合いません。

「ITコストが高い」と思われる前にやるべきこと
社内IT部門あるあるの話をしましょう。
経営や業務部門から見ると、ITが出してくるコスト試算は「なんか盛ってない?」と思われがちです。運用コストだけでなく、延命コスト、インフラ更改コスト、移行コスト……いろいろ積み上げると確かに大きな数字になる。でも業務側からすると「本当にそんなにかかるの?」という疑念が拭えない。
この不信感の根っこはどこにあるか。業務とシステムの対応関係が、パッと見てわかる状態になっていないからです。
「この業務にはこのシステムが紐づいていて、この業務をやめるならこのシステムが不要になる」という整理が即座に出てくれば、コスト試算の根拠も説明しやすい。でもその整理自体がないまま経営判断が下りてきて、慌てて対応するだけ、という状況に陥っているケースがあまりにも多い。

業務オーナーは存在する。でも機能していない
「業務オーナーが誰かわからない」という問題は、うちの現場ではそこまで深刻ではありませんでした。オーナーは存在する。でも、経営判断が下りてきたときに「それ、ITにどんな影響が出るか」を自分ごととして考えられているオーナーは、正直少ない。
業務オーナーが本来果たすべき役割は、経営の動きを受けて「自分の業務領域ではこういうシステム上の論点が出てくる」と能動的に動くことです。でも現実は、IT部門が整理して持っていくまで待ちの姿勢になってしまっている。
これはIT部門だけの問題じゃないし、業務部門だけの問題でもない。構造的な問題です。

ITコストインパクトの可視化:役員に直接持っていく
では何が効いたか。答えはシンプルで、整理した内容を役員レベルに直接見せに行ったことです。
やったことは大きく二つ。

サマリーで全体感を掴ませる
システムを分類し、それぞれの課題と資産価値を整理した資料を作りました。細かい一覧を最初から見せるのではなく、まずは全体感が一枚で掴めるサマリーを見せる。「気になったら詳細を見てください」という二段構えです。
役員は時間がない。でも判断はしなければならない。だからこそ、コミュニケーションコストを極限まで下げた形で情報を届けることが重要です。サマリーを見て「ここが気になる」となったら、詳細データに潜れる。その設計が機能しました。

経営の言葉でITを語る
技術的な話をそのまま持っていっても伝わりません。「このシステムを残すと年間〇〇円、事業再編後にこの機能が不要になれば〇〇円削減できる」という経営の言葉に翻訳して持っていく。それだけで、会話の質が変わります。
この実践を支えているのが、アプリケーションポートフォリオマネジメント(自社が保有するシステムを一覧化・評価・最適化する取り組み)とシステム台帳の整備です。経営IT連携の土台は、日頃からこの整理を続けることにあります。

経営は動き始めた。次の壁はIT部門と業務部門の間にある
この取り組みを続けた結果、経営側の理解と手応えはかなり出てきました。「ITがちゃんと経営の話をしてくれる」という認識が生まれてきた。
でも今度は別の壁が見えてきています。
IT部門が「業務側がやるべきでしょ」と思い、業務部門が「ITが整理してくれるでしょ」と思う。お互いが相手待ちになってしまっているケースが出てきています。
経営を動かすことはできた。次は、IT部門と業務部門が情報を取り合いながら能動的に動く関係をどう作るか。これが今の自分にとっての現場課題です。

結局、「経営IT連携」とはどういうことか
経営とITを紐付けるというのは、仕組みの話でもあるし、文化の話でもある。
仕組みとしては、業務とシステムの対応関係を常に整理しておくこと。経営判断が下りてきたときに、ITのコストインパクトをタイムリーに提示できる状態を作ること。アプリケーションポートフォリオマネジメントやシステム台帳の整備は、そのための基盤です。
文化としては、IT部門が経営の言葉を話せること。業務オーナーがシステムを自分ごととして捉えること。経営・業務・ITが互いに能動的に情報を取り合うこと。
どれか一つでは足りない。でも、どれか一つから始めることはできる。
あなたの現場では、経営の動きにITがタイムリーに答えられる状態になっていますか?

筆者:EAの中の人|事業会社の社内IT部門にてエンタープライズアーキテクトとしてEA推進・ITガバナンス・データ活用・AI活用に携わって10年以上。
本記事の内容は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。
