グループ会社の整理もEAの仕事だ――複雑な組織構造をわかりやすく可視化する
グループ会社が何社あって、どこに何のシステムが入っていて、コーポレートはどこまでサービスを提供しているのか。これを正確に答えられる社内IT部門は、果たしてどれだけあるだろうか。私の経験上、ほとんどの会社でこの問いに即答できる人はいない。グループ会社の構造整理・可視化は、EAが本気で取り組むべき仕事のひとつだ。
グループ会社のIT管理はなぜバラバラになるのか
多くの企業でグループ会社のIT管理が属人化・分散化している。その根本原因はシンプルだ。コーポレートの社内ITが十分なサービスを提供してこなかったから、各社が自分たちでやるしかなかったのだ。
実態を調査すると、こんな状況が見えてくる。
- ID管理が会社ごとにバラバラ
- 勤怠管理システムが複数存在
- 給与・コラボレーション・ネットワークも各社独自運用
- コーポレートの社内ITサービスが届いていない会社が多数
この状態を放置すると、セキュリティリスク・コスト重複・ガバナンス不全が慢性化する。グループIT管理の可視化と整理は、もはや避けられない課題だ。

なぜグループ会社の整理がEAの仕事なのか
グループ会社の構造整理は、一見すると経営企画や法務の仕事に見える。しかし実態は違う。
ITの観点からグループ全体を横断的に見渡し、「どこに何があるか」「何が重複しているか」「何が抜け落ちているか」を把握できるのは、EA(エンタープライズアーキテクチャ)の視点を持つ人間だけだ。経営企画や情報システム部門の担当者がこの仕事を担うケースもある。しかしEAが関与することで加わる固有の価値がある。それは「全体アーキテクチャとの整合性チェック」と「ITポートフォリオ視点での重複排除」だ。
縦割りの事業部門やシステム担当では、どうしても個別最適に陥る。ITとビジネスを橋渡ししながら全体最適の方針を描ける人間が必要だ。それがEAの役割である。

実態把握のアプローチ:セキュリティ監査を起点にする
グループITの可視化は、まず実態把握から始まる。私が実際に使ったのはセキュリティ監査の仕組みだ。各社に一定のセキュリティ要件を満たしてもらう仕組みをすでに導入していたため、そこに乗っかる形でどんなシステムが動いているかを可視化した。
システムの存在が把握できたら、次はヒアリングで「なぜこうなったのか」を深掘りする。ここで重要なのは、責めるのではなく「一緒に整理しよう」というスタンスで臨むことだ。グループ各社には各社なりの事情と歴史がある。

グループ会社の可視化:ExcelとパワポのOne Pagerで十分
ITガバナンスの観点からグループ会社を可視化するツールは、シンプルで構わない。
まずExcelでグループ会社の一覧を作る。会社名・資本比率・事業領域・地域・現在のITサービス提供状況を横並びに整理する。次にグルーピングの軸を決める。事業領域・資本比率・グローバル共通サービスの提供範囲・地域などを組み合わせて分類する。
最終的にはパワポのOne Pagerに落とし込む。図として視覚的に示すことで、経営層にも現場にも「うちのグループはこういう構造だ」という共通認識を作ることができる。
難しいツールは不要だ。グループ会社管理で大事なのはツールではなく、グルーピングの軸と分類の基準を明確にすることだ。

松・竹・梅の3分類でコーポレートITの役割を定義する
グループ会社を整理したら、次はコーポレートがどこまでITサービスを提供するかの線引きだ。ITガバナンスの観点から、私はシンプルに松・竹・梅の3段階で分類している。
松:コーポレートが全領域のITサービスを提供する
ネットワーク・クラウド基盤・共通インフラ・エンドユーザー向け共通サービス・業務アプリケーションまで、すべてコーポレートが面倒を見る。
竹:インフラ・共通サービスは提供するが、業務アプリケーションは対象外
ネットワーク・クラウド基盤・共通インフラ・共通エンドユーザーサービスまでは提供するが、業務アプリケーション領域はグループ各社が自前で対応する。
梅:基本的に自社運用
コーポレートからのITサービス提供は最小限。各社が独立して運用する。
この分類は、事業領域・資本比率・グローバル展開の有無・地域特性などを組み合わせて判断する。判断プロセスは「コーポレートのIT責任者とグループ会社トップが合意する」ことを原則とし、M&Aや事業変化のタイミングで定期的に見直す運用を設計しておくことが重要だ。
シンプルな3分類だからこそ、「うちはどのレベルのサポートを受けられるのか」がグループ各社にも一目でわかる。コーポレートITのサービス提供範囲を明確にする第一歩になる。

反発は必ず来る。データで経営判断を促せ
正直に言う。この仕事は攻撃を受ける。
グループ各社の社長や経営責任者から「なぜコーポレートが口を出すのか」「今まで問題なくやってきた」というクレームが来る。長年自分たちで運用してきたプライドと、コーポレートへの不信感が重なるからだ。
反発を乗り越えるための基本は、個別ヒアリングを丁寧に重ね、トップの合意を取り付け、方針を一緒に作ることだ。しかしトップがなかなか動いてくれないケースもある。そのときに有効なのは、実態データで問題を見える化することだ。「重複しているシステムにいくらかかっているか」「統一できれば何が改善されるか」を数字で示すことで、経営判断を促しやすくなる。
線引きは一度決めたら終わりではない。グループ会社の状況は変わる。M&Aや事業変化のたびに見直すプロセスそのものを設計しておくことが、持続可能なグループITガバナンスの要だ。

「なんとなくやっていた」を終わらせる
この仕事をやり切ったとき、一番の達成感は何だったか。「なんとなくいい感じにやっていた」状態が、「構造的に理解してサービスを提供できる」状態に変わったことだ。そしてグループ全体が同じ方向を向いて進める土台ができたことだ。
グループ会社のIT管理を可視化し、コーポレートITのサービス提供範囲を明確にする。これはEAの視点なしには実現できない仕事だと、私は確信している。
あなたの現場では、グループ会社の構造をきちんと説明できますか?「なんとなくやっている」状態が続いているなら、それを整理するのもEAの仕事です。

筆者:EAの中の人|事業会社の社内IT部門にてエンタープライズアーキテクトとしてEA推進・ITガバナンス・データ活用・AI活用に携わって10年以上。
本記事の内容は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。
