社内ITの現場で「外注と内製、どっちにする?」という議論は永遠に繰り返される。コスト削減の話が出るたびに「安い外注を使うか、IT内製化を進めるか」で揉める。その議論、そろそろアップデートが必要だと思っている。


外注依存の現場で起きていること

外注に頼りすぎた現場には、教科書通りの問題が揃っている。ノウハウが社内に溜まらない、コストがコントロールできない、品質がブレる、ベンダー依存で身動きが取れない。

でも一番の問題は、社内IT担当者が「契約事務手続き屋さん」になっていることだ。発注・進捗確認・検収・また発注。それを繰り返すだけで、何も自分たちの力になっていない。

さらに厄介なのが関係の固定化だ。外注先は契約継続が最優先。「このシステム内製化できますよ」「この業務、もう不要では?」という提案は、自分たちのメリットがゼロなので絶対に出てこない。これは構造的な問題だ。


IT内製化が理想、でも全部内製は幻想

システム内製化できるならそれが一番だ。キャッシュフローの観点で考えると、グループ内で内製化できていればお金が社内を循環する。外注すればその分がグループ外に流出する。ノウハウ蓄積の面でも内製の優位性は明らかだ。

ただし「全部IT内製化」はナイーブすぎる。リソースには限りがある。

よく使われる判断軸は「汎用的なものは外注、競争優位に関わるものは内製」だ。これ自体は正しい。しかしこれだけでは今の時代に足りない


AI時代の第三の選択肢――外注でも内製でもなく「AI化」

外注か内製かという二択に、今は「AIに置き換える」という第三の選択肢が加わっている。これが判断軸を根本から変えつつある。

外注できているということは、その業務がある程度標準化・可視化されているということだ。BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)的に切り出せている業務は、生成AIやAIエージェントで代替できる可能性が高い。

ところが外注先にこの判断を委ねると機能しない。「AIに置き換えられるか検討して」とベンダーに頼んでも、自分たちの仕事がなくなる提案を積極的にするわけがない。AI化の判断は自社でやるしかない。コードを書く内製ではなく、判断を内製化するという発想だ。


エンタープライズアーキテクトが果たすべき役割は「方針の翻訳」

外注・内製・AI化の判断を現場や各部門任せにするしかないのが現実だ。経営が全部決めることはできないし、現場が全部判断するには情報が足りない。

ここでエンタープライズアーキテクト(EA)の出番がある。トップの方針を、現場が判断できるレベルに翻訳・設計することだ。

現場担当者は「外注と内製、どっちにすべきか」で悩んでいるのではない。「判断基準がわからない」から悩んでいる。方針も基準も曖昧なまま個別案件ごとに議論を繰り返す。これが最大の無駄だ。

EAとしてやるべきことは三点だ。

  1. 判断基準を明文化する(競争優位性・AI代替可能性・情報リスク・キャッシュフローの軸で整理)
  2. トップの方針を現場語に落とす(「IT内製化推進」では動けない。何をどう判断するかまで定義する)
  3. 定期的に見直す(AI技術の進化で昨年の判断軸が今年は陳腐化する)

外注・内製・AI化の判断軸を整理するとこうなる

外注先からの情報漏洩リスクも見落としがちだ。「情報セキュリティが重要」と言いながら外注先に機密情報を渡し続けているケースは珍しくない。システム内製化やAI化を進める上でも、情報管理の設計はEAが必ず手を入れるべき領域だ。


自社の強みに集中する組織へ

外注と内製の議論は、コスト比較だけで決めるフェーズをとっくに過ぎている。AI化という第三の選択肢が登場した今、判断軸を持たないまま個別に議論し続けるのは時間の無駄だ。

エンタープライズアーキテクトの仕事は判断基準を設計して現場に渡すこと。「外注か内製か」で悩む時間を減らし、「何をAI化するか」「何を自社の強みにするか」に集中できる組織を作ることだと思っている。

あなたの現場はどうですか? 外注・内製・AI化の判断基準、きちんと言語化できていますか?「なんとなく外注」「とりあえず内製」が続いていないか、一度棚卸しする価値はあると思います。

まとめ(一枚絵)

筆者:EAの中の人|事業会社の社内IT部門にてエンタープライズアーキテクトとしてEA推進・ITガバナンス・データ活用・AI活用に携わって10年以上。
本記事の内容は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。