EAとして10年以上現場にいると、毎年同じ光景を目にします。立派なロードマップができた。でも1年後、ほとんど実行されていない。これはあなたの現場だけの話じゃないはずです。


ロードマップが「絵に描いた餅」になる構造的な理由

ロードマップが実行されない理由を「予算がない」「リソースが足りない」で片付けていませんか。それは表面的な話です。

本質は「作る」への意識と「捨てる」への意識の非対称にあります。

新しいシステムを作ることには、経営も現場も前のめりになります。要件定義が始まり、プロジェクトが立ち上がり、稼働すれば「リリースしました」と報告される。日本の組織はものを作ることは得意です。

ところが廃止・削減には誰も前のめりにならない。稼働したシステムがいつ廃止されたか、きちんと記録されている現場はどれほどあるでしょうか。「あのシステム、まだ動いてるっけ?」という会話が当たり前に起きている現場は、正直多いと思います。


ITシステムのライフサイクル管理とロードマップの関係

ロードマップは本来、システムの導入から廃止までのライフサイクル全体を管理するツールです。しかし多くの現場では、ロードマップは「新規開発・刷新の計画表」になっています。

廃止・縮小・統合といったアクションがロードマップに明示されていない。だから予算もつかない。担当者もアサインされない。結果として実行されない。

ITポートフォリオ管理の観点からも、稼働中システムの棚卸しと廃止計画の可視化は不可欠です。ロードマップに「捨てる計画」を組み込むことが、実行可能なロードマップへの第一歩です。


三者三様のすれ違い構造

廃止が進まない現場には、典型的なすれ違いの構造があります。

経営層は「なぜシステムをさっさと廃止しないんだ、ITコストが高すぎる」と言います。IT部門は「業務側が判断してくれないから廃止できないんだ、こっちは早くなくしたい」と言います。業務側は「ITが段取りして進めてくれているはずだ」と思って待っています。

全員が相手に委ねている。だから誰も動かない。この三角形のすれ違いこそが、ロードマップを止めている正体です。

ITガバナンスの視点では、この構造を放置することはリスクです。意思決定の責任と権限を明確にするRACI整理や、廃止判断のプロセス設計がガバナンス強化の具体的な打ち手になります。


廃止できないシステムが積み上がる現実

廃止が進まない背景には、現場レベルの具体的な壁もあります。

業務アプリケーションを廃止しようとすると、必ずデータの問題が出てきます。「データをどうアーカイブするか」「移行先はどこか」「法令上の保管義務はどうするか」――こういった課題が解決しないと、廃止に踏み切れません。

結果として何が起きるか。ユーザーはもう使っていない。業務上の役割も終わっている。でもシステムだけがひっそりと生き続ける。ITコストだけが毎年積み上がっていく。

これがロードマップの「実行できない理由」の実態です。新しいものを乗せる前に、古いものが片付かない。ロードマップは渋滞します。


EAがやるべきことは「待つ」ではなく「提案して動かす」

ではどうするか。「業務側の判断を待つ」という姿勢を、まず捨ててください。それがすれ違いの温床です。

IT側から廃止の提案を出す。データで示す。動けるアウトプットを用意する。

具体的には、システムの利用状況・コスト・業務上の依存関係を可視化した資料を作り、「このシステムはこういう状態です、廃止するならこのステップです」と業務側に提示する。判断を求めるのではなく、判断しやすい環境を整えるのがIT・EAの役割です。

ただし注意が必要です。「これがベストプラクティスだ」と上から目線で押し付けても現場は動きません。学術的なフレームワークや教科書的なアプローチをそのまま持ち込む人がいますが、現場からすれば「また煙たい話が来た」で終わります。


EA推進・ITガバナンス強化における推進役の役割

うまく廃止推進が進む現場には共通点があります。トップダウンの方針を背景に持ちつつ、困っている業務の現場に寄り添う形で入っている。口だけ出す人間ではなく、一緒に手を動かすコンサルティング的な存在として機能している。

そしてコミュニケーションの質が決定的に違います。「そうですね、わかりました」と話を流す会話と、「なぜそう思うんですか?」「その場合はどうなりますか?」と深く掘り下げる会話。後者の方が現場の本音と課題が見えてきます。

DX推進やシステム刷新においても、この推進役の存在がプロジェクト成否を左右します。EA・IT企画部門がこの役割を担えるかどうかが、組織のITガバナンス成熟度を示すバロメーターです。


ロードマップを「生きたもの」にするために

  • 新規開発への意識と廃止への意識の非対称を認識する
  • 三者(経営・IT・業務)のすれ違い構造を可視化して壊す
  • IT側から廃止提案を出し、判断しやすい環境を整える
  • 中立的な推進役として現場に入り込み、コミュニケーションの質で動かす
  • ロードマップに「捨てる計画」を明示し、ITポートフォリオ全体で管理する

ロードマップは作った瞬間が終わりではありません。実行されて初めて意味を持ちます。「捨てる」を設計に組み込む意識を、EA推進の中心に置いてください。

あなたの現場では、廃止できないシステムはどれくらい積み上がっていますか?「誰が判断するか」が曖昧なまま放置されているシステム、一度棚卸しをしてみてはいかがでしょうか。

まとめ(一枚絵)

筆者:EAの中の人|事業会社の社内IT部門にてエンタープライズアーキテクトとしてEA推進・ITガバナンス・データ活用・AI活用に携わって10年以上。
本記事の内容は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。