EAは経営層に説明できてナンボ――社内ITが動かす、経営との対話術
EAが経営層に説明できなければ、アーキテクチャは絵に描いた餅だ
EA(エンタープライズアーキテクチャ)の仕事は、アーキテクチャを設計することだと思っている人は多い。だがDX推進やITガバナンスの現場で実際に感じるのは、どれだけ精緻なアーキテクチャを描いても、経営層に伝わらなければ何も動かないという現実だ。
社内ITのEAは経営層に説明できてナンボ。10年以上この仕事をしてきた中で、最もリアルに感じている原則だ。経営層への説明力こそが、EAの推進力を決める。

経営層が動いた瞬間――IT資産一覧が「自分ごと」になった体験
あるIT部門で、経営層からこんな声が上がっていた。「新しいシステムに移行したのに、なぜ古いシステムがなくならないのか。現場がきちんとやっていないのではないか」という不信感だ。

そこでシステム台帳をベースにIT資産の一覧を、経営層の課題意識に紐づけた分析結果として提示した。単なる棚卸しではなく、「なぜ廃止できないのか」という問いへの直接の回答として見せたのだ。
結果、経営層の反応は変わった。「現場がサボっているのではなく、チェンジマネジメントの課題がある。自分が動かなければならない」という認識に変わった。IT資産の一覧が、経営層の自分ごとになった瞬間だった。これがEAとして経営層に説明する本質だと思っている。

「フレームワーク屋」が経営層に説明してもダメな理由
DX推進の現場でよく見る失敗がある。経営層への説明を、第三者的なコンサルやフレームワークの専門家に任せてしまうパターンだ。結果は表面的な話にしかならない。現場の実態を伴っていないからだ。

重要なのは、システムの実態を本当に理解している社内ITの人間が説明に臨むことだ。現場担当者と組んで、システム台帳やIT資産の一覧を一緒に説明しに行く。このプロセスを踏むことで、経営層の「なんでできないの?」という問いに、初めてリアルな回答ができる。ITガバナンスの観点からも、現場と経営をつなぐ役割はEAが担うべきだ。

現場担当者を巻き込む――最初の壁の越え方
現場を知っている人間を経営層への説明に巻き込むのは簡単ではない。ここは時間をかけるべきところだ。
まず丁寧にほぐすべきことがある。何が問題で、何が目的で、何が課題なのか。それを一緒に紐解いていく。そして最も重要なのは、「あなたが経営層に説明することで、あなた自身の課題も解決される」という構造を腑に落としてもらうことだ。
説明してくれる人の課題を解決できるように動く。これができると、現場担当者は自分ごととして経営層への説明に臨んでくれる。ITガバナンス推進においても、DX推進においても、この巻き込みプロセスは欠かせない。

やってはいけない説明パターン――トップダウン全体像の罠
失敗から学んだことがある。経営層にはトップダウンで全体像から説明するのが王道に思えるが、これは罠だ。
全体像を流していくと、経営層は「なんとなくわかる」という状態になる。しかし次に出てくるのは「わかった、でもなんでできないの?」という問いだ。答えになっていない。

経営層は常に具体的な質問を持っている。その質問に直接答える形で説明を組み立てることが、唯一機能する伝え方だ。全体像は補足であって、出発点ではない。社内ITのEAとして経営層に向き合う時、説明はボトムアップの課題解決から入るべきだ。

EAが経営層に刺さるための原則――完璧より回転数
完璧な資料を作り込んでから説明しようとすると失敗する。時間をかければかけるほど、経営層の期待値だけが上がっていく。そして実際に説明した時に「こんなものか」となる。
スピード感を持って、早く共有する。完璧でなくていい。それを繰り返す。この「早く・繰り返し」のサイクルが、経営層との信頼関係を作る。EAとして経営層に向き合う時、完成度より回転数を優先する。これが自分の結論だ。
あなたの現場では、経営層への説明をどのように工夫していますか?うまくいったパターン、失敗したパターン、ぜひ聞かせてください。

筆者:EAの中の人|事業会社の社内IT部門にてエンタープライズアーキテクトとしてEA推進・ITガバナンス・データ活用・AI活用に携わって10年以上。
本記事の内容は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。
